麻雀きょうぎ第12回 競技でしてはいけないこと

 プロ同士のリーグ戦、大勢の麻雀ファンが参加する大会、そういった競技の場でやってはいけないことがあります。

 大声を出すとか歌を歌うとかはもちろんですが、そうではなく、当人は良かれと思っている、これが正しいマナーだと思っている中に「やってはいけないこと」があるのです。

 麻雀店のマナーはハウスルール

 各プロ団体にはそれぞれ競技規定があります。もちろん、日本プロ麻雀協会にも。

 その中に次のようなものがあります。

 「自分の捨てた牌をポンやチーで鳴かれた場合、その人に差し出したりしない」

 なぜこのような項目があるかというと、新人の中には実際にそのようにする者がいるからです。

 この項目は、協会発足当初の規定にはなかったのですが、こうした行為をする新人がいたために後に加えられました。

 意図はわかります。鳴く牌を晒す牌に付ける(この行為自体を「ツケ」といいます)ために腕を伸ばすのは面倒でしょう、近づけてあげますよ、という親切心からでしょう。

 僕もたまにはフリー雀荘に行きますが、これをやる若い方が結構多い。とくにメンバーと呼ばれる従業員に多く見られます。

 ということは、こういったお店ではそれが推奨されているということです。店長等、上の方から「手を大きく伸ばさなくていいように牌を差し出してあげなさい」と言われているのでしょう。そして、おそらくそこにはツケの行為を早くしてもらう、時間短縮の意味もあるでしょう。稼働卓の回転は売り上げに直結しますから。

 こういったお店で育った若い方が「親切で時間短縮になる正しい行為」と信じたまま協会のテストを受けて、上記のような行為をすると試験官から注意されます。

 無事合格してリーグ戦を打つとして、その日までに癖がなおっていなければ、同卓者に嫌な顔をされるでしょう。立会人が呼ばれれば、当然注意されます。

 フリー雀荘でのマナーは言ってみればハウスルール。そこだけで推奨されるマナーです。

 お客の動作の手助けになり、時間短縮になるといった「お店の正義」はそこだけのもの。

 たとえば、大勢が参加する大会で、上記のような行為をすれば、「早くしろ」と煽られているようで不快に感じる人も出るでしょう。

 そうした感情面ばかりでなく、実は競技の場とは相いれない行為なのです。

 間違いが起きないように

 では、競技の場でもっとも大事にされることはなんでしょうか?

 それは「間違いが起きないようにする」ことです。

 前回、前々回では牌山をポロリとこぼしたり、牌を倒して見せてしまう行為を取り上げましたが、こうした言ってみれば「粗相」が一番起きやすい状態は二人以上の手が卓上で動いている場合です。

 そのため、前出の競技規定には、「基本的に牌山より手が前にあるのは常に一人である」と補足されています。

 鳴かれた牌をその人に差し出そうとする動きと、それをツケようと手を伸ばす人の動きが交差したり、あるいはぶつかったりしたら?

 こうしたときに牌山をこぼしたり、捨て牌を崩したりする危険が高まるわけです。

 「間違いが起きないようにする」これがもっとも大事なことという認識がしっかりしているベテランや上位リーグの卓ほど、上家の動きが完了してから自分の動作に入るということが徹底されていて、卓上で二人の手が動いているということはありません。

 

 もう20年以上前のことですが、難しい場面に出くわしました。

 一般も参加するマージャン101でのことです。

 僕の上家が当時は順位戦選手のSさん(現在はこの世界にいません。故郷の宮城で隠遁生活)で、下家がアマチュアのOさん。

 僕が切った牌にSさんがポンと発声しました。その声が少し聞き取り辛く、Oさんはツモりかけた手を空中に漂わせたままSさんに視線を移します。しかし、Sさんは微動だにしていません。

 Oさんは「いま、ポンて言わはりました?」と訊きました。すると、Sさんは「言いました! あなたが手を引っ込めてくれないと、ポンの動作に入れません」と。

 ここまで読んでいただいた方には、Sさんの言い分が競技として正しいとわかってもらえると思いますが、間に入った僕はそこまでキツイ言い方しなくてもなあ、と思っていました。まあ、Oさんがすぐ手を引っ込めて何事もなかったわけですが。

 僕ならどうしたかな。もう一度「ポンです!」と言うか、鳴く牌2枚を開示、ポンすることをアピールして手を引っ込めてもらうかしたと思います。

 牌山の中で二人以上の手がバッティングしなければいいわけで、鳴く牌を開示したまま、相手の手が引っ込むまで中央に手を伸ばさなければいいわけですから。

 実はリーチ打牌を鳴く場合も難しいのです。発声、特にポンはすばやくしなければなりませんが、リーチ者はリーチ棒を出すという行為まで完了させねばなりません。

 これも僕は発声、開示まで行ったあとは手を引っ込めていて、リーチ者がリーチ棒を出し終わってから、こちらがツケの動作に入ります。

 フリー雀荘では逆にツケの動作が終わったあとにリーチ棒が出てくることが多いと思います。やはり営業のマナーと競技のマナーは別物ですね。