優勝を争う決勝の場では、昔から論議されていることがあります。
「優勝の目がなくなったらどう打つか?」です。
特に、大きなタイトル戦の決勝がライブで配信される現在、視聴者も巻き込んで、かつてよりも取り沙汰されるようになっています。
よく言われる「メナシ問題」です。なお、この言葉は「勝ち目が無い」から来ているのですが、漢字では身体を連想する方もいるため、本稿ではカタカナにしています。
何をめざして打つかが統一されていない
タイトル戦の決勝まで勝ち上がったならば、もちろん優勝したいですよね。これはもちろん誰でも一緒です。
しかし、そうはいってもなかなか難しい。
最終戦を迎えて誰かが独走していたとします。麻雀ですから親番が残っていれば可能性は残りますが、逆に言えば、親番が終わって役満直撃でも優勝はないとなったら、普通に打つことは無理となります。
こういうときは、まだ親番が残っている、または現実的な可能性を残している人をたてて、極力邪魔をしない打ち方をするのが一種の美学のようになっています。
特に現在は配信があります。最後まで優勝争いを観たい、可能性のなくなった人のアガリには興味がない、という視聴者も多いでしょう。
しかし、もうひとつの考えもあります。
優勝が無理ならせめて2位、それも無理ならばひとつでも順位を上げようという考えです。2位以下でも賞金に若干の差があったりしますし。
また、翌年の期首順位にも影響を及ぼします。これは次年度のランキングみたいなものです。
協会のタイトルでいうならば、とくに「雀王決定戦」ですが、もともとランキング上位のA1リーグ出場者の戦いなので、ここでの順位ひとつの差が翌年の各タイトル戦のシード権に大きく影響します。ひとつ上の順位をめざすのは決して無意味ではありません。
また、日本オープンのように一般も参加するタイトルもあります。一般参加者が最終戦オーラスに順位の変わらないアガリをしたところで、それを咎められるでしょうか?
そもそも「最終戦オーラスに順位の上がらないアガリをしてはいけない」と書かれてあるルール表を私は見たことがありません。いわば暗黙の了解事項であって、決してルール違反ではないのです。
たとえば、最終戦が始まる前に、主催者から次のような説明があったとします。
「親番が終わってメナシになった方は、勝負の邪魔にならないように打牌に気をつけてください。トップ者がひとつ喰ったら、2個目は喰わさないように。ドラやドラ表示牌など、急所になりそうなところは特に切らないように。三元牌を誰かがポンしたら他の2種は切らないように。リーチに対しては、手詰まりで結果的に放銃するのはしかたないとしても、極力勝負をしないように」
こうしたガイドラインを出されたら従うしかないですよね。
しかし、そんな例はなく、統一された見解もない。ひとつには、打ち手の個性や考え方にまで制限をかけるような方法が果たして正しいのか? 当協会も含めた主催運営側が結論を出すのを怖がっている面もあると思います。
こうして打ち手個人の判断に任せられたままなので、「メナシの打ち方」が度々俎上に上がるわけです。
メナシを作らなければいい
なぜメナシになるのか? それは最終戦南4局がゴールと決まっているからです。
トータルポイント差と残りの局数を鑑みて「これは無理」となった人がメナシになるわけです。
ならば、ゴールを決めなければメナシはできないのではないか?
実はいつゴールになるかわからないタイトル戦があります。日本麻雀101競技連盟の「八翔位戦」とRMU主催の各タイトル戦です。
「八翔位戦」のほうは特殊なルールですので今回は触れませんが、RMUは普通にポイントを争うルール。その中で、リーグ戦である「令昭位戦」以外のほとんどのタイトル戦決勝では「新決勝方式」というのを採用しています。
以下が、RMUからお借りした新決勝方式規定の全文です。
第1項 開始時の規定
決勝終了時のトータルポイントを点棒に置き換える
第2項 場所決め、局の規定
場所はトータルトップから麻雀とは逆まわりに2位、3位、4位の順に座り、順位が入れ替わるごとに席も入れ替わる。全局を東1局とする。
第3項 順位点の規定
この新決勝方式は、オーラスの規定がないことから、順位点は存在しない。
第4項 新決勝方式終了規定
和了者がトータルトップになった場合のみ対局終了。
それ以外の場合は、すべて続行する。
たとえばテンパイノーテンでトップが入れ替わった場合は続行となる。(第2項より席は入れ替る)
第5項 親の規定
新決勝方式の開局時は、通常通りの親決め規定に則る。(トータルトップ者が仮仮東)
2局目以降は、前局アガった者が親番になる。
第6項 流局時の規定
親がノーテンなら親流れ。
テンパイ者の中から、親に近い方が次の親となる。
全員ノーテンのときは親に一番近い南家が次の親となる。
色々と細かな点はあるが、大まかにいえば「決勝終了時のトータルポイントを点棒に置き換えた上でトータルトップになるアガリが出たところで終了」ということである。
たいていの場合は、それまでのトータルトップ者がアガって決まりとなる。他3者は点差を逆転するまで勝負しなければならないが、もともとトップの首位走者は千点アガるだけで終わらせられるからだ。
しかし、アガった人は親を持ってこられるし、常に東1局で南4局というゴールが存在しないのでメナシはいつまでも存在しない。サドンデスの延長戦といった趣である。
個人的には「最終戦最終局を終わって優勝者が確定しない、ゴールが移動するってなんかなあ……」という感覚がないわけではないが、もうひとつのゴールが確定しない八翔位戦には嬉々として毎年出ているのだから、あまり偉そうなことは言えない。
多井隆晴代表も、「メナシ問題にひとつの答を出したと思っています」と語っている。
最後に、他の団体にもお薦めしますか? と訊いたところ、
「なにより選手への批判(ここでそれをアガってどうなるんだ等)がいっさいなくなりました。この方式がベストだとは思っていませんが、協会さんも考えたほうがいいですよ」
いままでの考えにとらわれず、ゴールテープが移動しても良しとして考える時が来たようだ。