佐藤崇の第35期最高位決定戦自戦記②

初日第1節。

神楽坂にあるいつもの会場に到着する。
随分と見慣れた景色だが、いつもと違うのは卓の配置。
中央にポツンと置かれているのを眺めると、嫌でも気持ちが昂ってしまう。

『おはよう!』最初に声をかけてくれた飯田を見て一瞬、絶句した。

『痩せましたね…でもなんか、カッコ良くなりましたね!』軽口で返す私に、飯田はいつものやさしい笑顔で背中をポンと叩いてくれた。

『悪かったな、待たせて…』

ご存知の方も多いと思うが、実は今回の決定戦、開幕が一カ月程遅れている。

飯田が大病を患ったのだ。

規定には一カ月の延期は許されているが、皆に迷惑がかかるので辞退するという飯田を会が何とか説得し、今回の開幕にこぎ着けた。

成功が危ぶまれた手術…長い闘病生活…痩せ細った身体がそれを物語っていた。

恐らく、本調子には程遠いだろう。

だが下手な情けなど本人も望んでいるはずはないし、かける余裕などこちらにもない。

相手がこの舞台に上がった限りは、全力でぶつかるのみである。
ただそう思うと同時に、この長丁場をどうか無事に闘い抜いて欲しい。
そんな気持ちも強く持った。

水巻は、いつもより幾分表情が硬かったのを憶えている。
私もそうだったかもしれないが、奴のいつもの『ウッス!』の後に、笑みがない。
多分、私にもなかっただろう。

村上のその時の様子は実はあまり憶えてないが、やはりいつにも増して気合いが入っていたように思う。
いつもと違い、あまり言葉は交わさなかった。

そして今回のシリーズ全戦に渡り観戦記を担当して頂いた土田浩翔氏は、3人のサポートを従え、万全の体制で静かに始まりを待っていた。
その真剣な眼差しが、私により一層の緊迫感を与えてくれた。

いよいよ始まる…!やるぞ!!

そんな強い決意で卓に着いたつもりだったが、意外と気持ちは落ち着いていた。
それもそのはず、そこには見慣れた顔ばかり。

そして先は長い。5日間、20回戦ある。うんざりするほど長い。

結果を恐れずいい麻雀を打とう。
ただどっぷりと麻雀にのめり込めばよい。
そう自分に言い聞かせる。
不思議なほどリラックスできていた。

立会人が開始を告げる。

いよいよ第35期最高位決定戦の幕が開けた。

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